その存在

夢を見た。

昔、好きだった人がスーパーで店員をしている。ミンチの補充をしている。
もう、随分昔に会ってからだいぶ経つのに、今もとてもカッコいい。
ずっと身体を鍛えてきた人ならではの、1つ1つの機敏さが美しい。
私は、あの時みたいに隣にいてあなたを近くで見ていた。

あの時は、ミンチではなくてお皿やバッグ、カップやお弁当箱だった。

素早く、丁寧な仕事をするあの人。

いつだって大好きだった。
そしていつも1番近くに私がいた。

思わず抱きしめてしまいたくなるような、閉じ込めてしまいたくなる美しさ。

すっかり私は忘れていた。
もう無くしてしまっていい感情だった。
私は今の人生で、私がやるべき事のほとんどを終了させてしまったから。
あなたと一緒にいたあの日は、今の私にもっと自由にもっと女性らしく輝く日をプレゼントしたいと思っていたものだ。
今は生きているだけでいい。

夢の中で、あなたと歩いた。
いつもより忙しく、あなたはそっけなく感じた。私は途中にある店内の鏡に顔を映した。
ノーメイクの髪の荒れたショートカットにルームウェアのワンピースだ。

彼のテンションも低いはずだ。

店外に出て、汚れた雑巾を干した。

なくなったはずのエスちゃんが現れた。
フワリとした緑のチュニック、デニムのスカート。
懐かしい!元気!
だって死んでしまったんだから。

私の右手の手のひらを、エスちゃんが温かく包む。
私も遊びたい、カラオケに行きたいと言う。

彼は来ないよ、不倫になるからね
と私は聞かれてないのに答えた。
エスちゃんは残念そうだった。

いつ行く?
お酒飲みたいから、土曜日とかがいいな!
と一方的に私はエスちゃんに伝えた。
エスちゃんは、今から行きたいのか
少し考えている。
手は繋いだままだ。

あったかい右手の感触を全身にも感じて
私は夢から覚めた。

ああ、6年か7年前の私か。
もう恋愛も友人も必要なくて、ただ生きていたいと思う毎日。

昔は朝、6時から起きて家事、育児、しんどい毎日に、少し癒すようにその存在があった。

誰よりもあなたが好きだった。
いつもキレイでいたいと思った。

この5年間、私は恐ろしく無理をしてお金を貯めて、人を好きになる気持ちなど全く忘れていた。

憧れて、閉じ込めたい、あなたの全てになりたい、なれないなら貴方になりたい。

私は変わってしまった。

貴方の会いたいという、気持ちに応えられず
つらい気持ちにさせてしまったことを今でもいつも後悔している。